失恋のつらさより、消したくない記憶

大胆な赤っ恥、テストの赤点、仕事の失敗。。。
誰しも消したい記憶の1つや2つ
それは大きい小さい限らず、みんなあるはず。
今何をやろうとしていたか、頼まれていたこと、仕事の期日。。。
忘れてはいけないことは忘れてしまうのに
忘れたい記憶に限って忘れることができない。
忘れた方が楽になれたとしても。

ただ覚えているだけの記憶もあるが
思い出すとその時の気持ちや感情までも湧いてくる記憶もある。
あの感じにいつも不思議な気分になる。
腹がたった旦那の言動を奥さんが何十年経っても言い続けるのは
あのときの腹立たしい感情も思い出すからだろう。
久々に会う学生時代の友達と呑んだ帰りの楽しかったという気持ちも
思い出話と共によみがえった昔の感情も入っているのではないだろうか。

しかしいい記憶よりも悪い記憶の方がなぜか思い出しやすい。
あまりいい別れ方だと言えない人とのことを思い出そうとすると
モヤモヤ・イライラするような
あれやこれやがたくさん思い出される。
だからといっていい記憶がないわけではない。
だがその記憶を思い出すには、引き出しを開けても開けても見つからなくて
予想もしていなかったところにしまってある
あの感じに似ている。

そしてこの思い出す感情には距離を感じることも多い。
それが懐かしいなのではないだろうか。
温かい感情に使われることが多いが
吐き捨てるような懐かしさもある。

   

この恋愛は衝動的だ。
衝動的というのは厄介で、だから間違いを犯した。
それが記憶を消すということだ。

彼女は急に彼の記憶だけを消した。
彼も当てつけかのように記憶を消すことにする。
彼女も彼も深く考えず、ただ忘れたいというただそれだけの感情でやってしまう。
気持ちはわからなくもない。
悲しい事や腹がたったときの行動なんて、衝動的になる。
みんなそんなもんだ。
だけどそのことにちゃんと向き合った後にわかることも多い。
特に恋愛に関しては。
良いこと悪いこと、楽しかったこと、悲しかったこと、喧嘩したこと、幸せだったこと。
全て揃っていて、いい思い出で消したくないこともある。
2人はそれを知る前に記憶を消すことにした。

彼は記憶を消すにあたって、もう一度彼女との記憶を体験する。
自分の中の彼女との記憶を体験することで
彼女との思い出と向き合うことになる。
そして今の自分の感情に気付くことになる。
彼の気持ちはお構いなしに
記憶は崩れ、消されていく。
そして自分がしてしまった衝動の後悔に気付く。

彼女との最後の会話も後悔だった。
彼の「楽しもう」は、もう無理だとさとったからこそ出た最後の願いで
本当の別れのように感じて切なくなった。

   

衝動的な行動は厄介だけど、ときには予感なのかもしれない。

パートナーも家族も友達も仕事も、
感情はループで。
それは好きになることも嫌になることも
強い絆であればあるほど、喜怒哀楽があるから次があって
それがずっとループする。
記憶は消せても自分自身は変わったわけではないのだから
感じるものは変わらない。
このループを止めずに続けるには
それでいいと思える温かい諦めが必要なのかもしれない。

何日も何年も何十年も経って、笑いあえたり、微笑みあったり、しみじみ思いあえる思い出も。
そうじゃなくて辛くて辛くて仕方がないことも、そりゃある。
だけど現代には映画のように記憶を消す方法はないから、抱えていかなければいけない。

映画の結末は、2人が記憶を消すときに思い出と向き合った結果なのだったのではないか。
この映画のラストがハッピーエンドでも、バッドエンドでも私はどちらでもよかった。
それは2人がちゃんと向き合って出したお互いの答えだったのだから
どちらにしてもハッピーエンドなんだと思う。

   

あとがきとして一言だけこぼさせてほしい。
こっちが起きないからって、何やってもいい訳じゃないんだぞ!

エターナル・サンシャイン

作品概要
https://eiga.com/movie/1057/

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