誰のために生きているのだろう

2021年3月8日

誰のために生きるのか。
誰のために生きているのか。

彼は一人の命を救ったが、妻の命を奪った。

妻はアルツハイマーだった。
苦しんでいる彼女を、彼は見ていられなかった。
毎回毎回、息子が死んでいることを聞かされる。
その悲しみを
あの時と同じくらいの絶望を
もう味あわせたくなかった。

彼女自身も死を願った。
だから彼女の願いを叶えてあげた。
しかしそれは彼女のためだったのか。

はたして彼は誰のために妻を殺したのか。

彼の空白の2日間がそこに詰まっている気がした。
彼女の中で生きている息子を言葉で殺す彼もまた
毎回息子を失い、あの時の苦しみや悲しみを味わっていたに違いない。

彼の供述と空白の2日間にみんなが思い詰める。
彼が語ろうとしない空白の2日間が捏造、保身、返り咲き、出世。
色々なことを交錯させる。
空白の2日間を利用する、これらは全て自分のためである。
そんな彼の空白の2日間にはちゃんとした理由があるはずだと
それが何なのか知らずにはいられなかった。
最愛の妻のために仕事環境まで変えて付き添ってきた。
そんな彼のこれまでの人柄もある。
だがしかし今の彼を知っていくうちに、話をしていくうちに
感じたものに引っかかったのではないか。

アルツハイマーはつらい。
それはなった本人もだが、周りもだ。
目を離すことなんてできない
人によっては人格も変わり、知っている様とは違うようになる。
いつ家族のことさえも忘れるかわからない。
そのことに悲しみや不安も出てくる。

彼は「殺してほしい」と、妻に頼まれて殺した。
しかしそれはアルツハイマーの苦しみから開放されたいという
一時的な願いだったのかもしれない。
だからこそ殺してよかったのかは、誰にもわからない。
そして彼女は誰のために死んだのか。