手紙の中は優等生–2021/0612 今日のぼやき

2021年6月12日

祖父から手紙が届いた、御歳暮の御礼状だ。
祖父の崩された文字は達筆で格好いい。
だから読みにくい(笑)
小さいときは何が書いてあるかわからず、娘である母に読んでもらっていた。
その母ですらたまに解読できないのだから、私からすれば難解な暗号だ。
しかし年を重ね大人になると、その暗号もほぼ解読できるようになった。
読める文字や文脈から、読めない漢字を推察して読むのだから
すらすら読めれば3分も経たず読める手紙も倍の時間がかかる。
どうしても読めないものもあるが、それはご愛嬌。
これも毎回ちょっとした楽しみになっている。

祖父はすごく年を召している。
何回も入院しているし、すごく長生きするとは言い難い。
それはずっと寄り添ってきた祖母もそうだ。
母曰く認知症が進行しているらしい。

そんな2人の顔を2年近く見れていないので、お歳暮を送ることにした。
人生で初めての経験だったので、とりあえず百貨店へ。
地下へ行き、日持ちがして祖父母が好んでくれそうなものを孫なりに考えた。
祖父母とは昔から離れて暮らしていた。
だから会うのは多くて年に3回ほど。
夏休みと親戚の集まりと、良くも悪くも何かあった時。
だからそんなに食卓を共にしたことがない。
それならば祖父母をよく知る母に相談すればいいことなのだが
実家にもちょっとしたサプライズのつもりでというか
なかなか帰らない娘の株を少しでも上げる為に
同じものでいいからついでに送ろうと思っていたので
相談することは出来なかった。
年齢のことを考えて固くなく食べやすい
そして見た目や書いてある文字だけでも喜んでくれるもの。
なぜなら体調が悪くなって食べられないかもしれないし
味覚が弱くなっているかもしれない。
そんな時に見た目で心が華やかになったり
ブランド食品や有名料理店の名前などを読んで
それだけで美味しいものを食べたんだなとお腹を満たしてくれるかも
そういう願いを込めて選ぶことにした。
その選定方法から今回は老舗有名店のお肉の煮物にした。
こちら側の事情で言うと買いやすい値段だったというのも決め手の一つだった。
そこからは熨斗や到着日時の相談など
店員さんに教えてもらいながら進めていった。

配送伝票に住所を書いている時
一言二言でもいいから言葉を添えたいなと思い店員さんに相談すると
名刺サイズくらいの紙を用意してくださった。
何も考えてなかったし、こんなところで長居するのも悪いと思って
少ない言葉で、そして元々お世辞でもきれいとは言えないのにさらに雑さが加わった字。
だけど心を込めたメッセージカードが出来上がった。

後日忘れた頃合いにいつも鳴ることのない電話の音がした。
祖父からお歳暮のお礼の連絡だった。
聞こえてくる声や言葉から、すごく喜んでくれているのがわかった。
久しぶりに聞いた祖父の声が元気そうで私もほっとした。
あとから母に聞いた話だが、祖父はお肉が大好きらしく
「ナイスチョイス！」だったとのこと。
よかったよかった。

そこからまた何ヶ月も経ってから手紙が届いた。
送り状に載っていた住所を見て送ってくれたのだが
字が汚いのと小さかったせいで住所が所々間違っている。
幸いにも郵便番号と番地、部屋番号が合っていたので私のもとへ届いたが
マンション名は間違っており、なんとなくの感じを読み取ってくれてのだろう。
郵便配達員様様で本当に頭が上がらない。

手紙にはお歳暮のお礼や少しずつ食べていること。
近頃は寝たきりで体調があまり良くないのに、私の健康に気を使ってくれていること。
心配するような内容も多く、いつもの祖父からの手紙にしては文章も短かったが
すごく心の温まるものだった。

手紙を書くときって、贈る相手を思い浮かべながら筆を走らせる。
だから例え悲しいことが綴ってあったとしても、そこには温もりがある。
紙やインク、切手、消印、封筒に書かれた住所や宛名の必要事項
何故かすべてに温度を感じる。
そういうところが愛され続ける所以だと思し
私も好きだ。

しかしそんな手紙に欠点を見つけてしまった。
書いた手紙にいる自分はすごくきれいだったことだ。
相手を思いやり案じている。
手紙に向き合っている自分の心に嘘はない。
だが普段のありのままの自分がいるかというとなんとも言えない。
良い自分しか手紙には存在していない気がする。

SMSやメールはボタンを押すだけで送れてしまうから
その時の衝動的な感情が乗ってしまう。
そして悪い流れになり反省することも多い。
しかし手紙はそんな時に一度筆を置き
気持ちを落ち着かせてから再度筆を走らせたり、一から書き直す事が出来る。
熟考できるのはすごく良いことだ。
でもそれは自分の醜いところや嫌なところがバレずに訂正でき
失敗が少ないということだ。
SMSやメールは失敗から喧嘩にもなるが
そこからその人のことを深く知れ、仲良くなれるきっかけにもなる。
そんな人間臭さというかありのままの自分を
手紙は隠す事ができる。

それは相手への思いやりがあるからだが
何か後ろめたさを感じた今回の手紙のやり取りだった。